日本フォーカシング協会ニュースレター第20巻第2号 2017年8月5日発行
国際交流コーナー シリーズ:世界のフォーカシング(13)編集:大澤美枝子(TIFIコーディネーター,フォーカシングプロジェクト)より加筆修正
(本稿は,海外のフォーカシング仲間に日本のことをお知らせするために作成した英文原稿 Focusing in Japan が元になっています)
日本のフォーカシング
ユージン・ジェンドリンと夫人のメアリー・ヘンドリックスは,1978年と1987年,2度来日しています。
ジェンドリンの初来日よりはるか以前の1963年,村瀬孝雄はウイスコンシン州マジソンにジェンドリンを訪ね,「人格変化の一理論 A Theory of Personality Change (1964)」を含む多くの論文を翻訳し,1964年(1966年改訂)には『体験過程と心理療法』(1981,ナツメ社)という1冊の本にまとめて出版しました。
1973年,村山正治はシカゴ大学にジェンドリンを訪ね,チェンジズ・グループやフォーカシング・マニュアルを日本に紹介しました。
50年代から60年代は,クライアント中心療法のカール・ロジャーズが,日本中の心理学者,カウンセラー,セラピストに多大な影響を及ぼしていた時代です。その結果,多くの人々がユージン・ジェンドリンによる新しい理論や方法にも深く興味をもつようになったようです。
1978年,ジェンドリン夫妻は,九州大学で開催された第42回日本心理学会大会の特別講演者として招聘され,福岡,京都,東京でもワークショップを行っています。
ジェンドリンのバンタム・ブックス版『フォーカシング』は,1982年に村山正治,都留春夫,村瀬孝雄により翻訳,出版されました(福村出版)。(ちなみに,『フォーカシング指向心理療法』は,村瀬孝雄,池見陽,日笠摩子他訳で1998年に出版されました(金剛出版))
1978年,筒井健雄はミシガン大学ノースキャンパスに滞在中,ジーンから「日本へ行ってきた。フォーカシングを教えるから私のアパートへ来ないか」という電話があり,あの『体験過程と意味の創造 Experiencing and the Creation of Meaning (1963)』を訳す許可をもらったのですが,もろもろの事情で1993年の出版となりました(ぶっく東京)。
1980年,ジェンドリンに学び,修士課程を終えた池見陽がシカゴから帰国し,九州グループに加わることとなりました。当時九州大学では村山正治を中心に,ますます盛んにフォーカシング理論を研究し,実践を積んでいました。1983年には日本フォーカシング研究会が発足,機関紙 「フォーカシング・フォーラム」がスタートしています。その間,日本各地でも多くのフォーカシングのネットワークが活発になってきたようです。
ジェンドリンとメアリー・ヘンドリックスは,1987年に再び日本に招かれました。今回は上級者向けのワークショップでドリームワークを含むライブのデモンストレーションを披露したり,公開講演会が企画され,我が国の臨床現場におけるフォーカシングの活用に大きな影響を及ぼすこととなりました。この壮大な企画は,1991年,村山正治の編集により,『フォーカシング・セミナー』(福村出版)と題する本にまとめられました。
アン・ワイザー・コーネルの初来日は1994年で,そのワークショップは全国の数か所で企画されました。九州の福岡,関西の芦屋,東海地区の名古屋,そして東京。これにより我が国におけるフォーカシング・マップができあがったようです。アン・ワイザー・コーネルは8度の来日を果たし,全国各地で数多くのワークショップや個人セッションを行いました。初来日の折,テキストとして翻訳された1993年発行の『フォーカシング入門マニュアル』 『フォーカシング ガイド・マニュアル』(第3版)は1996年に翻訳,出版されましたが,今なお愛好されています(『新装版 フォーカシング入門マニュアル/ガイド・マニュアル』2014,金剛出版)。
日本フォーカシング協会が1997年に設立されました。そして,「日本フォーカシング協会総会とフォーカサーの集い」が,毎年,全国の異なる地域で開催されています。フォーカシング協会ニュースレター「フォーカサーズ・フォーカス」が1998年に創刊され,年4回,3か月毎に発行されています。
1998年,ジェンドリンの3度目の来日が企画されましたが交通事故の後遺症のため果たせず,名古屋で開催された日本心理臨床学会の大きな大会にジェンドリンに代わって夫人のメアリー・ヘンドリックスが来日しました。この時,村山正治,村瀬孝雄,池見陽とメアリー・ヘンドリックスは,フォーカシング・インスティチュート(TFI)の新しい認定コーディネーターとフォーカシング・トレーナーを推挙しました。TFIは,メアリー・ヘンドリックスが事務局長を退いてから,世界のコーディネーターたちを中心に,名称をTIFI(The International Focusing Institute 国際フォーカシング研究所)に変えて,新しい組織として再スタートしているところです。
現在我が国には,1名の名誉会員,14名の認定コーディネーター,4名のコーディネーター・イン・トレーニングおよび131名のフォーカシング・トレーナーが存在します。(2017年5月現在)
以下,日本におけるフォーカシング・プロフェッショナル(CC/CNT)の地図と, CC/CNTによる自己紹介をごらんください。
【注】TR:トレーナー,CNT:コーディネーター・イン・トレーニング,CC:コーディネーター
北海道:
上村英生(札幌市在住)2004年にTR,2014年にCNT
北海道新聞記者として働いてきました。札幌フォーカシング・プロジェクト(SFP)を2001年に結成し,以来,毎月1回の例会(練習会)で世話役をしてきたほか,年に2回程度,たくさんの講師を招いてワークショップを企画してきました。2017年に「フォーカシングを使って書き記すことによる社会の構築」をテーマに修士論文を書きました。「からだを使って書くこと」に興味があります。日本フォーカシング協会ニュースレターグループの編集長をしています(2017年8月現在)。
東北:
CC,CNT不在。
関東甲信越:
日精研((株)日本・精神技術研究所,東京都千代田区)
近田輝行 1998年にCC
日笠摩子 1998年にCC
堀尾直美 2002年にTR,2011年にCNT,2014年にCC
日精研は戦後まもなくスタートした民間の心理研究所で,現在は皇居のすぐ近くのビルに会社を構えています。もともと心理検査の老舗でしたが,70年代には東日本におけるPCA(パーソン・センタード・アプローチ)実践の拠点の一つにもなり,90年代にはフォーカシングの拠点として多くのフォーカシング愛好者とプロを輩出しました。日精研のフォーカシングセミナーは1983年に都留春夫によって始まっています。88年からは村瀬孝雄によるセミナーがスタートし,92年に近田輝行が,95年には日笠摩子が村瀬のセミナーに加わっています。
96年には村瀬のセミナーを受け継ぎ,近田と日笠によるより拡大したフォーカシングセミナーのベーシックコースとアドバンスコースが確立しました。その後徐々にコースは増え,今日に至っています。セミナーの参加者から自主的にフォーカシングコミュニティが数多く生まれ,日本版チェンジズが広まりました。近田と日笠は仲間のトレーナーと共にさまざまな団体でフォーカシングを教え,関東地方の対人援助職の研修会にフォーカシングを定着させました。また,日笠は海外のフォーカシングプロフェッショナルの招待や翻訳を数多く手がけるだけでなく,国際会議への日本人の参加を積極的に呼びかけ,日本のフォーカサーにとって世界のフォーカシングを身近なものにしました。
日精研の出身者からインタラクティブフォーカシングやホールボディフォーカシングのグループができ,国際的に活躍する指導者も育っています。堀尾直美も日精研セミナー出身者の一人で,国内外の講師によるワークショップの開催やフォーカシングコミュニティの維持,個別セッションや各種団体での講師,大学院での指導やセラピスト向けトレーニングなどフォーカシングの各領域に幅広く関わっています。日精研においては,2011年以降は日笠と共に,そして,2015年以降は日笠に代わって中心的な役割を担っています。日本フォーカシング協会の現会長です(2017年8月現在)。
日笠摩子,ビビ・サイモン,大澤美枝子,堀尾直美,2016年ケンブリッジ国際会議にて
大澤美枝子 1993年にTR,1998年にCC
東京で大学カウンセラーとして勤務しながら,1994年にフォーカシング・プロジェクトを設立。本人による「フォーカシング&リスニング」のワークショップ,アン・ワイザー・コーネルその他の講師のワークショップを数多く企画,また個人開業でフォーカシングの個人セッションやトレーニング・プログラムを実施しています。「からだ全体で聴くこと」をテーマにして,みなさんに伝えています。シカゴ時代のジェンドリンやアン・ワイザー・コーネルの海外でのワークショップに数多く参加,またフォーカシング国際会議にも何度も参加しています。日本フォーカシング協会国際交流グループのメンバーで,現在ニュースレターの国際交流コーナーを担当しています(2017年8月現在)。
白岩紘子 CC
私の心理療法家としての背景には、Viktor.E.Franklの実存分析と友田不二夫から学んだCarl.R.Rogersのクライエント中心療法がある。友田不二夫は、クライエントの「今、ここに感じていること、そこが大事なのだ」と言い続けていた。1978年、ジェンドリンの講演で体験過程理論と実演に接し、友田が私たちに伝えようとしたことが、フェルトセンスという概念として明らかにされたということに感動した。私は、二人の先生からフェルトセンスという概念を手渡されたと感じた。
早速、フォーカシングに関心のあるカウンセラー仲間とフォーカシングを体験し合った。その結果、ジェンドリンのフォーカシングの伝え方よりは、メアリー ヘンドリックスのフォーカサーへの関わり方の方がセラピー的であり、私たちの手法とあまり違いがないという結論に達した。
1980年、巌谷平三、川村玲子、井上澄子、白岩紘子は、体験過程療法が実際に人々に意味をもたらすものなのかという試みのために、東京フォーカシング研究会を設立し、フォーカシングの研修会を行うようになった。月1回、8時間、と週一回4時間のグループワーク。その他に夏と冬、二泊三日の集中的な体験過程療法とフォーカシング指向心理療法を行ってきた。誰もが容易にフェルトセンスに触れられるように工夫された「からだほぐしと名付けているボディワーク」から始める導入のスタイルが確立した。その後にペアのフォーカシング体験をする。私が事務局だった10年間に、ニュースレターを発行し、東京フォーカシング研究会の10年の歩みを冊子にした。10年間の参加人数は1000人を超えていた。続きを読む
望月秋一(長野県在住)2003年にTR,2010年にCNT,2016年にCC
2001年に長野フォーカシング・プロジェクトを設立し,奇数月の第1土曜日にフォーカシング・グループワークの他に,2007年から大澤美枝子さんを講師に数年間(年3回)のフォーカシング養成プログラム,ディビッド・ブレイジャーを講師に招いてのワークショップ等を企画してきました。32年間,中野市の総合病院で臨床心理士として働き,現在は個人開業で,個人セッションやトレーニング・セッションを提供しています。「体現的イマジネーションと心のミラーリングにより,喪失(死)と創造の間の体験過程が促進されること」に興味を持っています。
東海・北陸:
伊藤義美(名古屋市勤務・岐阜県在住)1993年にTR,2000年にCC
大学院生であった1978年10月に学会講演(「体験過程療法」)とワークショップ(2泊3日)でジェンドリンさんに触れ,以後フォーカシングに取り組む。文部省在外研究員(visiting professor,1993.3〜1994.1)としてシカゴ大学のジェンドリンさんのもとに。フォーカシングの心の空間づくりの研究で学位取得(1998)。「ぎふ・長良川フォーカシングワークショップ」を長年開催し,名古屋フォーカシング・コミュニティ(NFC)(今年で18年目)を主宰している(2017年8月現在)。セルフヘルプ・フォーカシング(SHF)の構築をめざしている。
関西:
池見陽(大阪府勤務・兵庫県在住,関西大学大学院心理学研究科教授)CC
1980年に Eugene Gendlin先生の研究室で Doralee Grindler が企画して,第1回 Focusingトレーニング・プログラムが行われました。当時,Gendlin先生のもとで大学院生だった私は,そのプログラムに参加させていただきました。それは著作『フォーカシング』の初版がアメリカ合衆国で発行された翌年でした。その頃は,今のようなトレーナーの認定書はありませんので,そのプログラムをいつ修了したのか,正確な日付はわかりません。また,たしか1995年の阪神大震災の前後だったと思います,Gendlin先生よりコーディネーターになるように,と推挙していただきました。これも証書などはありませんので,日付は覚えていません。もともと大学学部で心理学専攻・哲学副専攻だった私は,先生の哲学や心理学理論に取り憑かれたようになり,心理臨床においても,大学・大学院の授業においても,ワークショップにおいても,人々が体験過程に立ち返り,そこから新鮮に思考することを指導してきました。日本,イギリス,ベルギーの大学で教鞭をとり,日本国内はもちろん,アメリカ,イギリス,カナダ,ベルギー,ドイツ,ギリシャ,イタリア,中国,香港で活発にワークショップや講演活動を行い,現在はオーストラリアでのワークショップが計画されています。日本語・英語での著書,専門論文やDVDなどが多数発行され,最新著書や論文は日本語と英語から中国語に訳されています。
中国&四国:
土江正司(島根県松江市在住)2004年にTR,2015年にCC
島根フォーカシング・プロジェクトの代表を務めています。毎月の勉強会では「フォーカシング・サンガ」というグループフォーカシングの手法を用いて,フォーカシングのトレーニングと仲間同士の交流を深めています。主にスクールカウンセラーをしていますが,週に3回マインドフルネス・ヨーガを教室で教えています(インド政府公認ヨーガ教師)。浄土宗の僧侶ということもあって仏教とフォーカシング関係にとても興味があります。また約16年,「こころの天気描画法」を開発し,小学校等で活用しています。
笹田晃子(徳島県松茂町在住)1998年にTR,2010年にCNT
1994年からフォーカシング・プロジェクトのスタッフとして大澤美枝子さんと活動してきました。2007年に徳島へ転居し,徳島でフォーカシング仲間とともに勉強会を始め,個人セッションやトレーニングをしています。中・高のスクールカウンセラーで,大学でもフォーカシングを教えています。協会ではニュースレター編集グループに所属。TAEや子どもへのアプローチに関心があり,JCFA(日本こどもフォーカシング・アソシエイツ)のメンバーです。
九州:
村山正治 TIFI名誉会員(HM)
吉良安之 CC
九州大学の大学院生時代に村山先生のもとでフォーカシングを学び,体験過程を軸にしたカウンセリングや心理療法を実践してきました。そのなかで,セラピストが心理面接場面で暗在的に感じていることにフォーカスしてその意味を明示的に捉えることが有意義であることに気づき,それを「セラピスト・フォーカシング」と名づけて実践しています。
田村隆一 1998年にCC
九州大学で村山正治先生からフォーカシングを学びました。日本フォーカシング協会の会長を2012年11月から2016年3月まで務めました。夢フォーカシングを中心に研究しています。現在は福岡大学でカウンセリングと心理療法を教えています。
森川友子 1998年にTR,2015年にCC
九州産業大学准教授です。フォーカシング的態度の日常化,痛みとフォーカシングに関心を持っています。福盛英明とともに,Ann Weiser Cornell(2011), Marine de Fréminville (2012), Jim Iberg (2014)といったフォーカシング教師を九州に招きました。書籍:フォーカシング健康法(2015,ISBN-9784414400946)。